『パンとスープとネコ日和』考察|恋愛も結婚も描かない女性たちの生き方

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小林聡美さん主演のドラマ『パンとスープとネコ日和』
もう何度観たかわからないくらい、繰り返し観ている大好きな作品です。

大きな事件も起こらなければ、劇的な恋愛もありません。
おいしそうなパンとスープが登場して、人々が何気ない会話を交わし、淡々と日常が過ぎていく。
それなのに、しばらくするとまた観たくなるのです。

一般的には「癒やし系ドラマ」と呼ばれる作品なのでしょうが、私が何度も観る理由は少し違います。
自分が大切にしている生き方や価値観を、再確認できるから。

今回は『パンとスープとネコ日和』を通して、恋愛や結婚にとらわれない女性の生き方、そして自分らしく暮らすことについて考察してみたいと思います。

『パンとスープとネコ日和』のあらすじと作品情報

『パンとスープとネコ日和』は、群ようこさんの小説を原作とした、2013年放送のWOWOWオリジナルドラマです。全4話で、主演は小林聡美さん。

主人公のアキコは、出版社で編集者として働いていましたが、母親の突然の死や職場での異動をきっかけに退職を決意します。

そして、母親が営んでいた食堂を引き継ぐことに。
ただし、母親と同じ店を続けるのではありません。
自分の好きなパンとスープを中心にした、新しいお店へと生まれ変わらせます。

そこで働くことになったしまちゃん(伽奈)や、向かいの喫茶店のママ(もたいまさこ)、昔からの商店街の人たちとの交流を通して、アキコの日常が描かれていきます。

登場人物は個性的ですが、物語は終始穏やか。
いわゆる起承転結のはっきりしたドラマとは、少し違う作品です。

考察① 恋愛も結婚も描かないことに意味がある

私が小林聡美さんの出演作品を好きな理由の一つに、独身女性の生き方が自然に描かれていることがあります。

『かもめ食堂』『めがね』『プール』『マザーウォーター』など、私のお気に入りには、恋愛を中心にしない作品が多いのです。

もちろん、恋愛ドラマが嫌いというわけではありません。
ただ、女性が主人公となると、どうしても恋愛や結婚が人生の大きなテーマとして描かれがちです。

仕事で成功しても、最後には素敵な男性と結ばれる。
あるいは、独身でいることに悩み、結婚によって幸せを見つける。
そんな物語も悪くはありませんが、女性の人生って、それだけではないでしょう。

『パンとスープとネコ日和』のアキコは、独身であることを嘆いたり、結婚相手を探したりしません。
だからといって、一人ぼっちの寂しい女性として描かれているわけでもない。

仕事があり、暮らしがあり、人とのつながりもある。
それだけで、ちゃんと一つの人生が成立しています。

何が何でも結婚しなくてもいい。
子どもを持つことだって、すべての女性が望むとは限らない。

結婚や出産を否定するのではなく、それらを人生の必須条件にしなくてもいいということです。
このドラマが面白いのは、そんな価値観を声高に主張しないところ。

恋愛や結婚がないことを、わざわざ問題にしない。
私はそこが好きなのです。

考察② アキコの開業はキラキラした成功物語ではない

近年、女性が自分のお店を持ったり、好きなことを仕事にしたりする生き方が、一つの憧れになっているように感じます。

小さなカフェや雑貨店を開業して、自分らしい暮らしを実現する。
そういう生き方に魅力を感じる女性は少なくないでしょう。

ただ、私はこの手の話が必要以上にキラキラしていると、少々疲れてしまいます。
夢を叶えた私。
好きなことを仕事にして輝く私。
自分らしく生きる素敵な私。

そんなに自分の人生を飾り立てなくてもいいんじゃないかと思うのです。

その点、アキコは実に淡々としています。
母親が残した食堂を改装して、自分の好きなパンとスープのお店にする。
メニューもシンプル。

お店が繁盛してきても、営業時間を延ばしてもっと稼ごうとはしません。
向かいの喫茶店のママに営業時間を延ばすことを勧められても、自分のペースを守ります。

普通なら、ここから事業を拡大したり、人気店になるまでの苦労を描いたりするのかもしれません。
でも、このドラマはそういう方向には進まない。

アキコにとって大切なのは、お店を大きくすることではなく、自分が納得できる形で続けることなのでしょう。
キラキラしていないところがいいのです。

ただし、アキコは母親が残したお店という土台を持っています。
誰もが同じように開業できるわけではありませんし、現実の経営はもっと厳しいはずです。

それでも、売上や規模の拡大だけが成功ではないという考え方には共感します。
自分が何をしたいのか。
どんな働き方をしたいのか。
それを自分で決めることに意味があるのだと思います。

考察③ アキコとしまちゃんに共通する「自分の面倒は自分で見る」という考え方

アキコと一緒にお店を切り盛りするしまちゃんも、なかなか興味深い人物です。
しまちゃんは29歳。
生活できるだけのお金があればいいという考え方で、必要以上に上を目指そうとはしません。

アキコとは年齢も人生経験も違いますし、仕事に対する考え方も同じではありません。
正直なところ、しまちゃんはまだ若いからなぁ、と思う部分もあります。

これから年齢を重ねていけば、考え方が変わるかもしれないし、生活に必要なお金だって変わってくるでしょう。
今の暮らし方を一生続けられるかどうかは、また別の話です。

でも、だからといって、しまちゃんの生き方を否定する気にはなれません。
彼女には彼女なりの考えがあり、その範囲で自分の暮らしを成り立たせようとしているからです。

アキコは自分のお店を持つ。
しまちゃんは、自分が生活できるだけ働く。

目指すものは違っても、二人には共通する部分があります。
それは、自分の面倒は自分で見るということ。

誰かに自分の人生を何とかしてもらおうとはしていません。
もちろん、人に頼ってはいけないという意味ではありません。

困ったときには助け合えばいいし、人とのつながりも大切です。
でも、自分の人生をどう生きるかは、自分で考える。

その基本的な姿勢が、二人にはあるように思います。
そして、二人とも自分の生き方を他人に押しつけません。
これも、このドラマが心地よい理由の一つなのでしょう。

考察④ もたいまさこ演じるママは、物語のスパイス

小林聡美さんの作品といえば、やっぱりもたいまさこさん。
この二人が揃うと、それだけで独特の空気が生まれます。

『パンとスープとネコ日和』で、もたいまさこさんが演じるのは、アキコのお店の向かいにある喫茶店のママ。
ちょっとお節介で、少し口うるさい。

でも、決して悪い人ではありません。
アキコのお店のことを気にかけて、営業時間について意見を言ったり、店先の植物について注意したり。
アキコやしまちゃんとは、少し違う価値観を持っている女性です。

私は、このママの存在が物語のスパイスになっていると思います。
アキコとしまちゃんだけだったら、あまりにも穏やかすぎるかもしれません。

そこに、ちょっと違う意見を持ったママが登場することで、物語にほどよい刺激が加わる。
しかも、ママの言うことが必ずしも間違っているわけではないのです。
長年お店を営んできた人だからこその考え方もあるでしょう。

だからこそ、アキコの生き方をただ肯定するだけのドラマにならない。
自分らしく生きることと、他人の意見を聞かないことは違う。
そんなことも、ママの存在から感じます。

小林聡美さんともたいまさこさん。
この二人の絶妙な距離感は、何度観ても飽きません。

考察⑤ 何も起こらない日常を、なぜ何度も観たくなるのか

『パンとスープとネコ日和』には、視聴者を驚かせるような展開がほとんどありません。
パンを用意して、スープを作って、お客さんを迎える。

仕事が終われば店を閉めて、自分の暮らしに戻る。
そんな日常が繰り返されます。

それでも、私は何度も観てしまいます。
なぜだろうと考えてみたのですが、たぶん、癒やされたいからだけではないのでしょう。

このドラマを観ていると、自分が大切にしている価値観を再確認できるのです。
必要以上に人と競わなくてもいい。
自分の暮らしを立派に見せなくてもいい。
世間一般の幸せに、自分を当てはめなくてもいい。
自分で考えて、自分で選んで、自分のペースで暮らしていけばいい。

アキコは、そんなことを説教がましく語ったりしません。
ただ、淡々と暮らしているだけです。

だからこそ、観ている側も自然に受け取れるのだと思います。
何かを頑張ろうと気合いを入れるためでもなく、落ち込んだ気持ちを慰めてもらうためでもない。
「そうそう、私はこういう生き方が好きなんだ」
そんなふうに、自分の考えを確かめる時間になっているのです。

まとめ|『パンとスープとネコ日和』が描く、本当の自分らしさ

『パンとスープとネコ日和』は、パンとスープのお店を舞台にした、静かな日常の物語です。
でも、何度も観ているうちに、単なる癒やし系ドラマではないと感じるようになりました。

アキコもしまちゃんも、自分の考えで暮らしています。
二人の生き方は違いますが、自分の人生を誰かに預けていないところは共通しています。
そして、その生き方を立派なものとして見せようともしません。

女性の自立というと、経済的な成功や華やかな活躍を思い浮かべることもあります。
でも、自立とは必ずしもそういうことではないのでしょう。

自分の面倒は自分で見る。
自分が何を大切にしたいのかを知っている。
そして、他人にも同じ生き方を求めない。

そんな静かな自立が、このドラマには描かれているように思います。
私は小林聡美さんのこういう作品が大好きです。
『かもめ食堂』も『めがね』も、何度も観ています。

そして、しばらくするとまた『パンとスープとネコ日和』に戻ってくる。
新しい発見を求めているわけではありません。

自分の価値観を、もう一度確かめたくなるのです。
キラキラしていなくても、自分が納得できる人生なら、それでいい。
このドラマを観るたびに、私はそう思うのです。

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