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小林聡美さん主演の『山のトムさん』は、私の大好きな作品のひとつです。
『かもめ食堂』『めがね』『パンとスープとねこ日和』と同じように、何度も繰り返し観ています。
何度も観ているのでストーリーはわかっているし、結末だって知っている。それでも、また観たくなるんですよね。
この作品で描かれているのは、田舎の古民家で暮らす人たちの日常です。
大きな事件が起こるわけでもなく、劇的な展開が待っているわけでもありません。
でも、登場人物たちの暮らしぶりが、なんとも心地いいのです。
この記事では『山のトムさん』の魅力と感想をまとめてご紹介します。
『山のトムさん』のあらすじ
東京から田舎へ移り住んだハナ(小林聡美)は、友人のトキ(市川実日子)とその息子トシと一緒に、古民家で暮らしています。
そこへ、中学校を卒業したハナの甥アキラが加わり、4人での共同生活が始まります。
畑で野菜を育て、鶏やヤギを飼い、自然に囲まれた生活を送る4人。
ところが、古い家にはネズミが住みついていました。
そこで近所のシオリさんの勧めで、ネズミ退治のために子猫を迎えることになります。
その猫が「トムさん」
ネズミを捕る猫に育てるためには、抱っこをしてはいけないと言われるのですが、あまりのかわいさに、みんなこっそり抱っこしてしまいます。
当然、なかなかネズミを捕ってくれません(笑)。
そんなトムの成長を見守りながら、畑仕事をしたり、ご飯を食べたり、近所の人たちと交流したり。
季節の移り変わりとともに、4人と一匹の暮らしが淡々と描かれていきま
家族でもない人たちが一緒に暮らす、不思議な関係性
この作品で私が一番好きなのは、登場人物たちの関係性です。
ハナとトキは友人同士。そこにトキの息子とハナの甥が加わっているのだから、一般的な家族の形とはちょっと違います。
それぞれがどんな人生を歩んできたのか、なぜこの暮らしを選んだのか。
そういった背景は、あまり詳しく説明されません。
でも、不思議と気にならないんですよね。
むしろ、説明されないところがいい。
4人はいつも一緒に何かをしているわけではありません。
それぞれが自分の仕事をしたり、好きなことをしたり、必要なときには協力したり。
同じ家で暮らしているからといって、必要以上に干渉しない。
でも、決して冷たい関係ではないのです。
この距離感が、なんともいい。
実は私自身も古民家で妹と暮らしています。
お互いの生活にはあまり干渉せず、それぞれ自分のペースで過ごす毎日。
だからなのか、この映画の暮らし方には、憧れというより親近感を覚えるのです。
一緒に暮らすということは、何でも一緒にすることではない。
そんな当たり前のようで、案外難しいことを、この作品ではごく自然にやっているんですよね。
猫のトムさんは、気まぐれな同居人
タイトルにもなっている猫のトムさん。
もちろんかわいいし、猫をめぐるエピソードもたくさん登場します。
でも、何度も観ているうちに、実は猫そのものはそれほど重要ではないのかもしれない、と思うようになりました。
トムは気まぐれです。
いたり、いなかったり。
人間たちが期待するようには動いてくれません。
そもそもネズミ退治のために迎えた猫なのに、みんなにかわいがられて、なかなか仕事をしてくれない(笑)
でも、それでいいんですよね。
人間たちもそれぞれ自由に暮らしているし、猫も猫のペースで暮らしている。
誰かが中心になってみんなをまとめるわけでもなく、自然とひとつの暮らしが成り立っている。
そう考えると、トムさんもあの家の立派な同居人なのでしょう。
古民家の縁側と土間、そして丸い食卓
小林聡美さんの作品を観る楽しみのひとつが、家やインテリアです。
『山のトムさん』の舞台となる古民家も、本当に素敵。
縁側のある平屋の母屋に、庭や畑、別棟や倉庫がつながっています。
私が特に好きなのは、縁側と土間です。
縁側では、お茶を飲んだり、ご飯を食べたり、昼寝をしたり。
家の中でも外でもない、あの曖昧な空間がいいんですよね。
そして、台所にはかまどがあり、羽釜でご飯を炊いています。
薪ストーブもあって、家の中心には大きな丸い食卓。
この丸テーブル、『パンとスープとねこ日和』にも登場していたものと同じように見えるんですよね。
同じ家具でも、作品が変われば違った表情になる。
テーブル、いい仕事してるな!と思ってしまいます。
それにしても、かまどで炊くご飯はおいしそう。
我が家にもかまどが欲しい!
田舎暮らしの現実は、映画ほど優雅じゃない
さて、ここからは実際に田舎で暮らしている者として、ちょっと言わせてもらいたい。
この映画には「そうそう、わかる!」と思う場面と、「いやいや、それは無理でしょ!」と思う場面があるのです。
まず感心するのが、きちんと手入れされた畑。
野菜を育てるには、草取りをはじめ、日々の細かな作業が欠かせません。
ハナやトキがしょっちゅう畑に出て、しゃがんで作業している姿には、妙なリアリティがあります。
一方で、どうしても気になるのが、開け放された縁側や玄関。
あれは羨ましい!
風が通り抜けて、庭と家がひとつにつながっているような開放感。
ドラマならではの演出ですよね。
実際にあんなことをしたら大変です。
蚊やハエはもちろん、名前も知らない虫たちが次から次へと入ってきます。
映画の中でも、食事の場面で小さな虫がふわ~っと飛んでいるのが見えたことがありました。
そうそう、これが現実なのよ(笑)
古民家暮らしは確かに魅力的ですが、自然と一緒に暮らすということは、都合のいい部分だけを選べるわけではありません。
それでも、あんなふうに縁側を開け放して過ごす時間には、やっぱり憧れてしまいます。
小林聡美作品ならではの、自然な会話と時間の流れ
もうひとつ、この作品で好きなのが登場人物たちの会話です。
食卓を囲んでいるときや、道を歩いているときの何気ないやり取り。
これ、台本に書いてあるのかな? それともアドリブ?
そんなふうに思ってしまうほど自然なんですよね。
特に小林聡美さんの作品には、会話の間や、言葉にならない空気感を楽しめるものが多いと思います。
誰かが何かを言って、それに誰かが反応する。
ただそれだけなのに面白い。
『山のトムさん』も、ストーリーを追うというより、そこに流れている時間を楽しむ作品なのだと思います。
だから、何度観ても飽きない。
ながら見をしていて、ふと画面に目を向けると、いつもの人たちがいつものように暮らしている。
それがなんだか落ち着くのです。
『山のトムさん』の感想まとめ|何でもない日常が、実は一番いい
『山のトムさん』は、刺激的な展開や意外な結末を期待する人には、少し物足りない作品かもしれません。
でも、私はこういう映画が大好きです。
家族でもない人たちが、互いに干渉しすぎず、それぞれのペースを大切にしながら一緒に暮らしている。
そこには、理想の家族像を押しつけるようなところも、無理に絆を強調するようなところもありません。
ただ、一緒に暮らしている。
それがいいんです。
そして、古民家の縁側や土間、畑や庭、食卓を囲む人たちの姿を眺めていると、何でもない日常がとても豊かなものに見えてきます。
でも、よく考えてみれば、私たちの暮らしの中にも、そんな瞬間はあるんですよね。
普段は気づかずに通り過ぎているだけで。
『山のトムさん』を観るたびに、そんな何気ない時間をもう少し大切にしたいなと思うのです。
そして、きっとまた何かをしながら、この映画を流しているのでしょう。
何度でも戻りたくなる、そんな作品です。
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